2025年12月18日に施行された「スマホ新法」(スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律)により、長らくアプリ事業者の収益を圧迫してきたストア手数料の構造が、ようやく変わり始めました。
施行日以降、日本市場において以下の行為が禁止されました。
- アプリ内でWeb決済ページへのリンクを制限すること
- アプリ内で価格やキャンペーン情報の表示を禁止すること
- 外部決済を理由に審査を遅らせたり、検索順位を下げること </aside>
つまり、これまでは実質禁止されていた外部決済への誘導が解禁され、やり方次第では手数料を大幅に削減できる道が開けています。本投稿では、スマホ新法の要点と、アプリ事業者が今すぐ押さえるべき実務上のポイントを整理します。
スマホ新法早見表 ー施行前 vs 施行後の手数料比較
Apple Store 参照元:Apple Inc.
| 決済/導線 | 施行前 | 施行後*1 |
|---|---|---|
| アプリ内決済*2 | 30% | 26% |
| アプリ内・外部決済*3 | 原則不可 | 21% |
| リンクアウト決済*4 | 原則不可 | 15% |
| 代替アプリストア配信 | 不可 | 5% |
| 外部決済の言及のみ | 不可 | 可能 |
Google Play 参照元:Play Console ヘルプ
| 決済/導線 | 施行前 | 施行後 |
|---|---|---|
| アプリ内決済*2 | 30% | 30% |
| アプリ内・外部決済*3 | 26% | 26% |
| リンクアウト決済*4 | 原則不可 | 10%(サブスク / 年$1Mまで) |
| 20%(その他デジタル購入) | ||
| 代替アプリストア配信 | Androidは構造上もともと可能(Galaxy Store等) | 同様 |
| 外部決済の言及のみ | 可能 | 可能 |
- 条件により表記の手数料より減少する場合があります
- Apple IAPもしくはGoogle Play Billingのこと
- 外部決済SDK等
- App → Webで決済のこと
外部決済を採用することで手数料の大幅減額が見込めるように
Apple(日本)
- アプリ内決済“最大30%”⇨ 最大26%
- リンクアウト型の外部決済は原則不可⇨可能に。手数料は 15%(条件で10%)。
Google(日本)
- アプリ内決済“の標準手数料は 30%据え置き
- リンクアウト型の外部決済は原則不可⇨可能に。手数料は 20%(条件で10%)
スマホ新法の要点
スマホ新法によりできるようになること
1. アプリ内からWeb決済への誘導
「Webで購入する」などのボタンを設置し、ブラウザでWeb決済を完了させる導線が可能になります。
2. アプリ内での価格・キャンペーン表示
Web上で提供するプランの価格や割引情報を、アプリ内で表示することが認められます。
3. ストア決済と外部決済の併存
従来のアプリ内課金(IAP)を残しつつ、外部決済を主要な購入導線として設計することも選択肢に入ります。
想定される決済フロー
施行後、以下のパターンが新たな選択肢になります。
| パターン | 内容 |
|---|---|
| アプリ | |
| ↓ | |
| Web決済 | |
| ↓ | |
| 即時利用 | アプリ内でプラン表示 |
| ↓ | |
| CTAからWebへ遷移 | |
| ↓ | |
| 決済後すぐ利用可能 | |
| Web先行購入 | |
| ↓ | |
| アプリログイン | Webで先に購入 |
| ↓ | |
| アプリでアカウント連携&利用 | |
| IAP | |
| + | |
| Web決済の併存 | ユーザーに選択肢を提示し、 |
| どちらでも購入可能にする |
モバイルアプリ事業者はこれからどうしていくべきか?
外部決済を前提とした設計への移行
スマホ新法の施行により、アプリ内決済(IAP)よりも外部決済・Web決済へ誘導する方が手数料面で有利になりました。これに伴い、従来の**「アプリ内決済を前提とした設計」から「外部決済を主軸とした設計」への見直し**が必要になります。
以下、実務上のポイントを整理します。
1. 課金・権限管理の設計変更
従来はAppleやGoogleのレシートを「購入の証明」として扱い、それを元 に利用権限を付与する設計が一般的でした。外部決済を主軸にする場合、この前提が変わります。
購入証跡の扱い
- ストアのレシートは「購入経路のひとつ」として扱う
- 利用権限の付与は自社バックエンドで判断する
- IAP・Web決済どちらの購入でも、同一の権限IDを付与する
アカウント管理の軸
- Apple ID・Google IDではなく、アプリ内アカウント(メールアドレス等)を軸に管理する
- 端末変更、OS変更、Web→アプリの移行に対応できる構造にする
- 将来的なマルチプラットフォーム展開の土台になる
2. Web決済体験の設計
Web決済への誘導が増えると、Webストアの使いやすさ が収益に直結します。特に日本市場では、違和感のない体験設計が重要になります。
UI設計
- スマホ縦画面・片手操作を前提にする
- 入力項目は最小限に抑え、決済完了までのステップを短くする
- Safari・Chrome両対応、ブラウザの「戻る」操作で破綻しない設計にする
価格・プラン表示
- 税込価格、課金周期、解約条件を明示する
- アプリ内購入との違いがユーザーに伝わる説明を入れる
決済後の体験
- 決済完了後、サーバー側で即座に利用権限を付与する
- アプリに戻った際に自動で同期される仕組みにする
- 「支払ったのに使えない」状態が発生しない設計にする
3. 計測項目の整備
外部決済の導線が増えると、どこで離脱が起きているかを把握する重要性が増します。以下の指標は最低限追えるようにしておく必要があります。
| 指標 | 見るべきポイント |
|---|---|
| アプリ→Web遷移率 | 誘導導線が機能しているか、文言・配置の効果検証 |
| Web決済完了率 | 決済UIの使いやすさ、入力負荷、心理的離脱の有無 |
| 利用開始までの時間 | 決済完了→機能利用開始までの秒数。長いと問い合わせが増加する |
| 問い合わせ発生率 | 「反映されない」「どこで買ったか分からない」などの発生頻度 |
4. 地域別・段階的な展開
スマホ新法は日本国内の法律であり、他国のストア規約とは状況が異なります。一斉に切り替えるのではなく、段階的に展開できる設計が必要です。
地域制御
- まず日本のみでWeb決済導線を有効化する
- 他国のストア規約リスクを回避する
段階展開
- ユーザー属性、OS、アプリバージョン単位でON/OFFを制御できるようにする
- 問題発生時に即座にロールバックできる構造にする
サーバー側制御
- アプリのアップデートなしで導線を変更できるようにする
- 審査中でも挙動を制御可能にする
- 法改正やガイドライン変更への即応性を確保する
手数料を実質0%にする方法
ユーザーがアプリ内のリンクを経由せず、自らWebストアにたどり着いて決済を完了すれば、プラットフォームへの手数料は発生しません。以下のような方法が検討できます。
アプリ内での告知(リンクなし)
- 「『アプリ名 公式ストア』で検索」などのテキスト表示
- 「Webストアならお得に購入できます」といった案内文
- リンクが設置されていないバナーやポップアップ
アプリ外からの誘導
- メールマガジンでWebストアへ誘導
- SNS(X、LINE、Instagram等)での告知
- プッシュ通知から直接Webストアへ遷移(アプリを経由しない導線)
注意点:アプリ内リンクを設置する場合
一方、アプリ内にWebストアへの直接リンクを設置する場合は注意が必要です。リンクアウト型の外部決済では、リンクをタップした瞬間の購入だけでなく、タップ後一定期間内に行われたWeb上の取引がストア手数料の対象になります。具体的には、Appleではリンクタップ後7日以内、Googleでは24時間以内の購入に手数料が課されます。
外部決済システム導入における課題と解決策
外部決済の導入が手数料削減に有効であることは 明らかです。しかし、実際に導入しようとすると、いくつかの現実的なハードルに直面します。
課題1:実装コストと運用リスクが高い
Web決済を自前で構築する場合、以下のような開発・運用が必要になります。
- 決済UI(Checkout画面)の構築
- Stripe等の決済サービス連携
- サブスクリプション管理システム
- Web購入→アプリへの反映処理
- 再購読・復元機能
- 不正決済・二重課金・例外処理
- 分析基盤・Webhook連携
これらはすべてアプリ内決済とは別のシステムとして構築する必要があり、エンジニア工数・バグリスク・将来の保守コストを考えると、導入のハードルは決して低くありません。

